美術工芸 空心-Ku-shin-

About

修繕という仕事を通して触れている名工達の作品は、
技術力・デザイン力・知識・教養・アイデアなど、
作品を構成する様々な要素1つ1つの細かい部分まで
妥協することなく創作されています。
それら先達の作品にとどまらず、あらゆる創作物を対象に
多くのものを学んできました。

21世紀の今、新しいテクノロジーや面白いアイデアが
目ざましいスピードで生まれています。
そのような刺激的でスピード感のある現代の表現の場において、
発想から製作、完成まで、作り手が自分の作家性のみで
作り上げた美術工芸品が、古典的なものとしてのみの
存在になってしまうのはとても寂しい。
先達から引き継いだ感性を後進に残していくためにも、
美術工芸品に携わっている人間として、
伝統的な感覚を引き継いだ作品を少しずつでも
作っていくことは、非常に大切だと考えています。

Creation

100年以上前の品物を修繕し、また後世につなげていくことを使命としていますが、そのような仕事をしている中で、自分の作品への取り組みにおいても学ぶことはあまりに多く、作品への追求には限界はないということを思い知らされます。

「美術工芸」と呼ばれるものの価値とは一体何で決まるのでしょうか?手で作ること、その技術のみに価値があるのではありません。また、短絡的な思いつきからくる表現でもなく、そして表現や美しさだけを追求する美術品でもありません。技術、表現への深い理解と美しさ、道具としての機能、それら全てを一つの作品の中に融合させる工程にこそ、作家が持つ固有の感性が現れるのであり、唯一無二の価値を持った工芸作品になっていくのだと感じています。

『鍛鉄内銀張露蜂房形手香爐』

スズメバチの巣をモチーフに鍛鉄で本体を形作り、内側には同形に鍛造した純銀を嵌めています。蜂は、黒く錆びる銅合金(赤銅)と山吹色に錆びる銅合金(丹銅)を使用し、それぞれ嵌め合わせて成形した後、錆びさせて発色させています。お香がこぼれないように、内側はジャイロ構造になっています。
(76×76×92mm)

『内銀黄銅古裂文様仕覆形茶入』

黄銅を鍛造したものの側面に、極小の魚子で紗綾形の地模様を入れ、その後菊牡丹唐草を銀の平象嵌で表現し、古裂文様の仕覆を金属で再現しました。食品が触れる内側には、同じ形に鍛造した純銀製の中子を嵌めています。本体の黄銅も紐の銀も、素材自体を発色させています。
(60×60×100mm)

Repair

幕末から明治にかけて隆盛を極めた日本の伝統工芸。現代に至るまで名前の残る名人たち、そして優れた技術を無名のまま残していった人々の作品の多くは、時代の流れによって、修理や修復が必要な状態にあります。
そのなかでも、正阿弥勝義・加納夏雄・海野勝珉・山田宗美・高瀬好山らの、精巧な技術を用いて美しく繊細な表現を追求した美術工芸品、中川浄益・秦蔵六・金谷五郎三郎・竹影堂榮眞らの、主に茶道で使用される格式ある道具類、そして古くは江戸時代から続く龍文堂や亀文堂といった名門の鉄瓶など、多種多様な技法を用いて製作された金属工芸品の修繕を、約1200点以上にわたって手がけてきました。

実際の修復作業には、それらの作品が製作された技法と同じく、受け継がれてきた伝統的な技法を用います。このような「伝統工芸」と呼ばれる作品の修復には、うわべだけの修理に終わるのではなく、高い技術性や美しさ、そして歴史に至るまで、その作品の価値に対する理解が必要不可欠と考えるためです。しかし、作品の破損箇所や詳しい材質など、修理に必要な情報を得るのが難しいと判断した場合は、現代の科学技術も使用し、可能な限り正確に状態を把握します。作品や、高い技術を現代に残してきた職人たちへの尊敬を忘れずに、伝統工芸品の修繕という作業を心がけています。

修復後

修復前

Customize

工芸作品にとっての金属は、構造上必要である場合やデザイン上のアクセントなど、あくまでも脇役でしかありません。しかし、既製の金具では、個々の作品のために誂えた金具と比べるとやはり作品本体との調和に劣り、かえって悪目立ちしてしまうことも多くあります。
誂えた金物を用いることで、作品の魅力を損なわないだけでなく、金具という細部にまで本体製作者の作家性が宿り、結果として作品の素晴らしさを高められることに繋がると考えています。

美術工芸品に多く関わってきた経験を活かし、覆輪・蝶番・角金具・前金具などの誂え金具や、神宮や寺院などの特別な金具類、七宝や漆芸の金属胎、美術工芸品用の金属製展示台まで、希望される仕上がりと現物の形状に合わせて、その作品の素晴らしさが一番表現できる金物を制作致します。

「自在置物
スズメバチ」

Collection

日本には独自の技法や意匠を使った様々な工芸がありますが、金属工芸でも、多くの独自性を持った物が作られてきました。
特に、細密工芸が盛んに行われていた時代があり、その時代に作られたアイテムは、現代の日本の工芸作家の礎になっています。

技術・意匠・アイデア・知識、どれをとっても非常に完成度の高い物が作られてきましたが、生活習慣や文化が変化するなかで需要が減り、同時に作り手も減っていきました。
このような素晴らしい工芸品であるにも関わらず、極少数が古美術品として流通しているだけの現状は残念に思っていました。そこで、これまでの経験や培ってきた技術をもとに、新たな細密工芸品をコレクター向けの商品として製作していくことにしました。 これらのアイテムは先達のアイデアを再現するものであり、遥かに環境が良くなっている現代の作り手が自分自身の作品として発表するものではないと考えています。
したがって、自分自身の創作活動で製作している作品とは別のコンセプトを持つ商品として、作っていきたいと考えています。